クラファンが終わってからは毎日時間を決めて翻訳の作業を進めている。趣味で始めたペタンク漫画の翻訳だったが、出版が決まり販売される本なのでいい加減な翻訳は出来ない。と言いつつも、私の語学力では限界があるのだが。
しっかり辞書を引いて、翻訳アプリの助けも借りながら1年前にした翻訳を見直していると、基本的な間違いが多くあり、話の内容がすっかり変わってしまった部分もあった。
しかしこれは”仕事”なのだから気を入れてやらねば、と思い始めると、仕事をしていた頃が懐かしく思い出される。
クラファンが目標達成したのは11月9日で、古い友人達と少人数の食事会でそのお祝いをすることになった。
1ヶ月前の11月の4週目のことであった。
夕方に岐阜の自宅を出て、バスに乗り電車に乗り換え、久しぶりに名古屋の街に出た。地下鉄の丸の内駅を出て伏見通りを歩いていると仕事をしていた2年前までの生活が思い浮かんでくる。
忙しい毎日だったけども緊張感も達成感もあった。ひと仕事が終わって馴染みのレストランで食事をするのも楽しかった。
私はグルメではないが、気に入った店に通うのは好きだった。今日食事をするのもそうした懐かしい店だ。伏見通りから魚の棚の交差点を曲がって少し歩く。
夜も7時近いので人通りも少ない小路だ。たしかこの辺りと思って歩くと店の前に出た。
古くからいるギャルソン(いや、ここはイタリアンだから、カメリエーレか?)が私の顔を見て懐かしそうな笑顔で迎えてくれた。
ここは私の大好きな店の1つだった。今池にも素敵なマダムのいた店があったがマダムはもういない。私は料理を評価する舌は持ち合わせていないが、私の好きな店は料理も食器も内装も、そして何より人が私を心地よく迎えてくれる。
もう奥のテーブルには懐かしい友人が揃っていた。仕事をやめてからは久しく会うこともなかったが、今回のクラファンでは皆ネットを通じて支援をしてくれた。
お祝いの言葉と乾杯。そして、なぜ今回のクラファンが始まったのか、ある女性とフランスのペタンク漫画との不思議な出会いの話を私は語り始めた。何度となく語った話だが、今夜の話は嬉しさと懐かしさ、そしてワインも加わり、いつもよりドラマチックにそしてロマンチックに語ったかもしれない。
件のカメリエーレが私の話を聞いていて、出版のお祝いを言いに来てくれた。
”こうしたお祝いにこの店を選んで頂き光栄です”、と彼は言い、
お店からですと言って、ワインを一本サービスしてくれた。
そこでもう一度乾杯した。
私はワインを語るほどのグルメではない、しかしこうして出されたワインが私にとって最高の忘れられないワインとなる。
これは間違いない!